近年、クラウドを活用して情報システムの設計、構築、運用・保守に携わるクラウドエンジニアの人手不足が話題になっており、クラウドエンジニアの求人募集も増加傾向にあるなど、クラウドエンジニアへの注目が高まっています。
ここではその背景とクラウドエンジニアが担っている仕事を解説しましょう。
▼目次
そもそもクラウドとは
「クラウド」(クラウドコンピューティング)とは、クラウド環境(インターネット環境)下でサーバ、ストレージ、ネットワーク、データベース、OSなど様々なIT資産を仮想的に利用する仕組みとされています。
従来のオンプレミス環境下の情報システム開発においては、ユーザ(企業)がサーバを始めとする様々な物理的IT資産を社内に設置する必要がありました。このため多額の初期投資が必要で、大規模なシステムは開発に3カ月以上かかるのが通例でした。
しかしクラウドの登場により、自社のシステム開発に必要なIT資産の大半をインターネット経由で利用できるようになりました。その結果、ユーザは初期投資を必要最小限に抑えることができ、システム開発も短期間で済ませることができるようになりました。
またIT資産の大半を自社で調達する必要がないので、サーバ、ストレージ、データベースなどの容量の拡張・縮小、組合せなどが容易で、自社の業務量に合わせたシステム開発が可能です。このためシステム運用のコスト最適化を図れるのもクラウドの特徴と言えます。
クラウドの形態
クラウドの形態は次の4タイプに分かれています。
- パブリッククラウド型……誰でも利用できるオープンなクラウド形態。クラウドベンダがIT資産の大半をインターネット経由で提供し、不特定多数のユーザがそれを利用する。なお一般に「クラウドサービス」と言う場合はこのタイプを指す
- プライベートクラウド型……自社専用のクラウド形態
- ハイブリッドクラウド型……オンプレミスとクラウドを組み合わせた形態。例えば「データはクラウドで保存、システムは使い勝手の良いオンプレミスで運用」と言った形で、両者のメリットを生かしたクラウド利用が可能
- マルチクラウド型……複数タイプのクラウドを組み合わせた形態。例えば「通常のシステム運用はプライベートクラウドを利用、バックアップシステムはパブリッククラウドを利用」など、システム運用目的に合わせたクラウドの使い分けが可能
クラウドサービスの種類
クラウドベンダが提供するクラウドサービスは、9レイヤーで構成されているクラウドの何レイヤーまでベンダが提供するかによりSaaS、PaaS、IaaSの3種類に分かれています。クラウドベンダが提供するレイヤーが少なくなるほどユーザが管理するレイヤーが増え、その分カスタマイズ性が高くなる仕組みです。
3種類の基本的な違いは次の通りです。
- SaaS(Software as a Service)……クラウドの9レイヤーすべてを提供し、システム設計・構築・運用・保守の一切をクラウドベンダが提供する
- PaaS(Platform as a Service)……クラウドの8レイヤーを提供し、システムのアプリケーションソフト開発環境をクラウドベンダが提供する
- IaaS(Infrastructure as a Service)……クラウドの5レイヤーを提供し、システムのインフラ環境をクラウドベンダが提供する
国内で利用できる主要なクラウドサービス
2021年現在、国内で利用できるクラウドサービス(パブリッククラウド)として、次が挙げられます。
- Google Cloud(旧GCP)……Google社が提供するクラウドサービス。Gmail、YouTube、GoogleマップなどGoogle社が提供するサービスのプラットフォームをクラウドとしても提供しているのが特徴
- AWS( Amazon Web Services )……Amazon社が提供するクラウドサービス。700点以上と言われるサービスの豊富さが特徴
- Microsoft Azure……Microsoft社が提供しているクラウドサービス。2010年にサービスを開始し、Windows Server、Microsoft Officeなど様々なMicrosoft社製ソフトウェアツールとの親和性が高いのが特徴
クラウドエンジニアの仕事と役割
クラウドエンジニアの仕事と役割は、基本的にオンプレミスのSEと変わりません。しかし情報システムの開発環境がオンプレミスからクラウドへと大きく変わるので、実務面ではクラウドエンジニアならではの知識とスキルが必要とされています。
クラウドエンジニアの主な仕事として次が挙げられます。
クラウド環境下での情報システム設計
オンプレミスと異なり、物理的なデータセンターの設計は不要ですが、クラウドの仕組みを最適化した設計が必要になります。またオンプレミスからクラウドへの移行か、クラウドでの新規システム開発かで設計も異なってきます。
いずれの場合も、クラウドの特徴である高可用性とシステム拡張性を最大化できるシステム設計が重要になります。
クラウド環境下での情報システム構築
システム要件定義書とシステム設計書に基づき、クラウド環境下でのシステム構築を行います。具体的にはOS・ミドルウェアのインストール、仮想サーバの設定、データベース構築、仮想ネットワーク構築、システム構築後の動作テストなどを行います。
例えば仮想サーバの設定では以下のような内容を行います。
- サーバのロケーションとネットワークの設定
- サーバの冗長化や負荷分散のためのロードバランサー設定
- サーバのバックアップ設定
クラウド環境下での情報システム運用管理・保守
システム構築後はクラウド環境下でシステムが安定的に稼働するための運用管理・保守を行ないます。オンプレミスと異なりクラウドの場合はデータセンターでの物理的な運用管理・保守は不要ですが、システムを安定稼働させるためのチューニング、OSやミドルウェアのバージョンアップとパッチ処理、システム監視、セキュリティ権限管理、運用コストの管理などが必要になります。
なお、クラウドエンジニアとネットワークエンジニアの仕事は似ていると言われます。
しかしクラウドエンジニアがシステム設計から運用管理までの全般を担当するのに対し、ネットワークエンジニアはネットワークシステムの構築・運用管理が担当業務になります。
クラウドエンジニアを取り巻く市場背景
近年、クラウドエンジニア不足が話題になっている背景として、クラウドの急速な普及が挙げられます。
例えばICT市場調査会社大手のMM総研が2020年6月に発表した「国内クラウドサービス需要動向調査/2020年5月時点」(調査対象?国内一般企業3万9115社)ではこのようなデータが発表されています。
- 国内クラウドサービス市場規模(2019年度)は推計2兆3572億円で前年度比21.4%増。
- 2024年度までの年平均市場成長率は18.4%の見通し。国内クラウドサービス市場規模は、2024年度で5兆3970億円へ拡大の見込み。
- オンプレミスからクラウドへの移行が進むに連れ、クラウド活用を前提にしたシステム開発環境が整備されクラウドシフトに弾みがつく見通し。大手企業ほどその傾向が顕著。
そして今回の調査では従業員の規模に関わらず7割超の企業が「新たなシステムを構築する際に何らかの形でクラウドを使っている」と回答したとのこと。
旧来型のオンプレミス環境のみで新システム構築を考える企業は、大企業では12.8%に留まったとの調査結果からも、国内企業へクラウドサービス活用が広まっていると同社は分析しています。
クラウド環境下での情報誌システム設計・構築・運用を行うことができるクラウドエンジニアの育成は、IT業界の今後の課題のひとつだと言えるのではないでしょうか。
まとめ
多くの企業がオンプレミスからクラウドへのシステム移行を進める中、IT業界ではクラウドエンジニア不足が年々深刻化していると言われています。
そのためクラウドの知識とスキルを身に着ければ、間違いなく自分の市場価値を高められるでしょう。特にオンプレミスのシステム開発経験しかないSEの場合、その経験はクラウドで応用しやすいので、クラウドのスキルを身に着けるのはそれほど難しくはないでしょう。
クラウドエンジニア不足問題は、SEにとってキャリアアップのチャンスと言えるかも知れません。