就職・転職先を探す際、よく耳にするのが「障がい者雇用枠」という制度です。
障がい者雇用と一般雇用との違いはどこにあるのでしょうか?
また就活時に障がいを開示することにより、どのような影響があるのでしょうか?
今回の記事では、障がい者雇用と一般雇用との違いを詳しく解説します。障がいのある方が「障がい者雇用枠」と「一般雇用枠」のどちらを使うべきか判断するヒントになれば幸いです。
▼目次

障がい者雇用と一般雇用の違い
障がい者雇用とは、自治体や民間企業などが、障がいのある人を対象にした「障がい者雇用枠」で、障がいのある方を雇用することです。一般的な求人である「一般雇用枠(一般採用枠)」とは別の枠で募集されており、採用条件が異なる可能性があります。
一般雇用と比較すると、障がい者雇用は仕事の種類が限定されてしまったり、求人数が少なかったりなどは見られるものの、障がいに関して配慮してもらえるため、より働きやすい環境で仕事に集中できる傾向にあるでしょう。
企業が求める一般雇用枠の条件をクリアしていれば、障がい者雇用枠ではなく、一般雇用枠での就労も可能です。しかし症状や特性によっては、一般雇用枠の条件を満たすことが難しいケースもあります。また一般雇用は障がいがあることを前提とした求人ではないため、実際に働き始めても障がいに対する理解や協力が得られない可能性がある点にも注意が必要です。
また一部の企業では、障がい者雇用枠と一般雇用枠の間で、賃金や人事制度に差を設けない経営方針を採用しており、障がいに関する配慮を申し出ることで配慮した対応を受けられる場合もあります。制度や方針は企業によって異なるため、事前に公式ホームページや求人情報を確認したり、障がい者の就職支援を専門とする機関に相談するなどして詳しい情報を入手しましょう。十分な下調べは、後々のトラブルを未然に防ぐために大切です。
関連ページ:障がい者雇用とは?障がいのあるITエンジニアが知っておきたい基礎知識
障がい者雇用枠の対象者
障がい者雇用枠の対象者は「療育手帳」「身体障がい者手帳」「精神障がい者保健福祉手帳」いずれかの手帳を所持している方です。障がい者雇用枠の対象となる障がい・疾病は、所有している手帳によって異なります。(以下の図版:【障がい者雇用枠の対象となる障がいの種類】)
障がい者手帳の種類 | 療育手帳 (お住まいの自治体によって手帳の名称が異なる場合あり) | 身体障害者手帳 | 精神障害者保 健福祉手帳 |
---|---|---|---|
対象となる障がい・ 疾病の種類 | ● 知的障がい | ● 聴覚障がい ● 視覚障がい ● 心臓障がい ● じん臓障がい ● 小腸機能障がい ● 肝臓機能障がい ● 平衡機能障がい ● 呼吸器機能障がい ● 上肢・下肢・体幹障がい ● 音声・言語・そしゃく機能障がい ● ぼうこう又は直腸機能障がい ● 免疫(ヒト免疫不全)機能障がい | ● 気分障がい ● てんかん ● 発達障がい ● 統合失調症 ● 非定型精神病 ● 中毒精神病 ● 器質性精神障がい(高次脳機能障がい含む) ● その他の精神疾病 |
障がい等級 | ● A(重度) ● B(重度以外の 中程度) | ● 1級〜6級 | ● 1級〜3級 |
参考:障がい者手帳|厚生労働省
関連ページ:障がい者雇用枠とは?特徴とメリット・デメリットを解説
障がい者雇用と一般雇用の給料の違い
障がい者雇用枠を利用して働く場合、どれくらいの給料を受け取ることができるのでしょうか。厚生労働省が行っている「障がい者雇用実態調査」の結果を見てみましょう。(以下の図版:【障がい者雇用と一般雇用の給料の違い】)
身体障がい者 | 知的障がい者 | 精神障がい者 | |
---|---|---|---|
平均賃金 | 215,000円 | 117,000円 | 125,000円 |
通常30時間以上 | 248,000円 | 137,000円 | 189,000円 |
20時間以上30時間未満 | 86,000円 | 82,000円 | 74,000円 |
20時間未満 | 67,000円 | 51,000円 | 51,000円 |
日本の給与所得者の平均給与は「384,000円(年間の平均給与から1か月ごとの平均給与を計算)」のため、一般雇用の方が給料は高いと言えるでしょう。
障がい者雇用と一般雇用で給料の差があるのは、障がい者雇用は求人が少なく職種も限定されており、軽作業や事務作業など専門的なスキルを求められることが少ない仕事に携わることが多いためです。
合理的配慮に基づいた職場環境の整備や、障がいの特性に合わせたツールの導入、サポートする人材の確保など、一般雇用と比べるとコストがかかることも影響しています。
それぞれのメリットとデメリット
障がいのある方が、待遇面や働き方・給与面、障がいに対する理解や配慮に違いがあるため、今後のキャリアプランに合わせて選ぶとよいでしょう。
障がい者雇用枠で働くメリット
障がいのある方が、障がい者雇用枠を利用して働く場合、次のようなメリットがあります。
- 企業側に症状に対しての理解を得やすい
- 環境面や従業員の意識面などで必要な対策や配慮を行っているケースが多い
- 病院への通院、勤務時間に配慮してもらえるケースが多い
障がい者雇用の条件の一つに、障がいを開示する必要がありますが、障がいを開示することで企業側のサポートを受けることが可能です。入社前に障がいについて相互に認識を合わせることが可能なため、入社後に症状が要因となるミスマッチをなくし、安心して勤務しやすくなります。一般雇用として働くよりも、周りの同僚や上司から理解を得やすく、安心して働くことのできる環境が整っています。
障がい者雇用枠の求人の場合、過去の経験や資格、スキルなどを問わないものがあるので、障がいをお持ちの方でも就労に挑戦しやすいと言えるでしょう。過去に就労経験がない場合でも、企業や職場の人たちが障がいに対する理解があるので、安心して仕事を始められる可能性が高いです。
働き始めてからのミスマッチを防ぐために、採用前に業務を体験できる機会を設けている企業もあります。あらかじめ業務を体験できる機会が選考過程に組み込まれている場合、将来的にどのような仕事を行うのか、自分の特性に適した仕事なのかなどを、体験を通して見極めることが可能です。
特に障がいのある方は、定期的に病院への通院など、勤務時間を調整しなければならない場合も多いです。障がい者雇用枠として働く場合は、そういった特別な事情を配慮してもらえたり、勤務時間や業務内容の相談などもしやすいでしょう。できるだけ定着して働き続けたいと考えている場合は、障がい者に対して配慮や理解のある企業の障がい者雇用枠を利用した方が良いでしょう。
関連ページ:障がい者雇用でITエンジニアが働くメリットは?転職成功の秘訣を紹介
障がい者雇用枠で働くデメリット
障がい者の方が、障がい者雇用枠を利用して働く場合、次のようなデメリットがあります。
- 一般雇用枠よりも募集が少ない
- 職種の選択肢が少ない傾向にある
- 業務内容や待遇面の条件が一般雇用枠と異なる傾向にある
- 業務内容や待遇面の条件が一般雇用枠と異なる傾向にある
- 基本は「障害者手帳」が必須
障がい者雇用は年々増加傾向にありますが、一般雇用の求人数と比較すると障がい者雇用の求人数はまだまだ少ないです。就職・転職活動を始めるタイミングによってはさらに難易度が上がる場合もあるでしょう。
そして一般雇用と比較すると、障がい者雇用は軽作業や事務職などに関連した職種が多く、専門職などは少ない傾向にあります。もともと事務職や軽作業を希望している求職者が多く、企業側も合理的配慮に基づいた労働環境を整えやすいことが影響しているといえるでしょう。
軽作業や事務職を希望している人にとっては問題ありませんが、様々な選択肢の中から仕事を選びたい、専門職などに就いて経験やスキルを身につけたいと考えている方にとっては、物足りない可能性があります。特に備品整理や清掃、データ入力や書類整理などの単純作業の求人の場合、高水準の給与を期待できない場合が多いでしょう。
一般雇用枠で働くメリット
障がいのある方が、一般雇用枠を利用して働く場合、次のようなメリットがあります。
- 障がいについて第三者に知らせなくてよい
- 選べる職種が豊富
- 一般雇用としての待遇を受けることができる
一般的な求人枠で働く場合には、障がいを第三者へ知らせる必要はありません。責任のある立場も狙いやすいため、給与をはじめとする待遇面も一般雇用として評価を受けることが期待できます。
一般雇用枠で働くデメリット
障がいのある方が、一般雇用枠を利用して働く場合、次のようなデメリットがあります。
- 障がい者雇用枠と比べ障がいへの配慮を受けにくい傾向にある
- 一般雇用枠としての勤務をこなせない場合、仕事を続けにくい
そもそも障がい者雇用枠と異なり、障がいへの配慮を前提としていないため、企業からのサポートはあまり期待できません。場合によっては退職を選ぶケースも見られます。
ただしお持ちの障がいの相性によっては、特定の職種や企業だと長続きしやすいケースもあります。一般雇用枠に応募する場合も、過去の同職種の経験談や、企業の提示する条件・環境面などを可能な範囲で事前に調べ、ご自身の適性をふまえて検討するのがよいでしょう。
まとめ
障がい者雇用枠と一般雇用枠には、さまざまな違いがあります。
特に大きいのが障がいへの配慮および、それにともなう業務内容と待遇面です。障がい者雇用枠は障がいへの配慮を前提としていますが、一般雇用枠で配慮を受けることが難しいです。
ただし自身の状況と相性がよい職種や企業の場合、一般雇用枠であっても長続きするケースもあります。どちらを選択した方がよいか悩む場合もあるため、迷った場合は専門機関へ相談してみるのもよいでしょう。