急速に発展するIT業界において、転職は珍しいことではありません。
特にITエンジニアは、スキルアップやキャリアアップ、理想のライフプランの実現などを目的として転職を前向きに検討する方が多く、それは障がいのあるITエンジニアにとっても例外ではありません。
2023年現在も、ITエンジニアの求人は豊富です。障害のあるITエンジニアに特化した求人や転職支援サービスも多く存在し、場合によっては「障がい者雇用枠」を利用することもできます。ただし、障がい者雇用にはメリットとデメリットが存在します。また、専門職であるITエンジニアはスキルや経験が重視されることも多く、転職時にはポイントを押さえる必要があるでしょう。
今回の記事では、障がいのあるITエンジニアが知っておきたい基礎知識として、障がい者雇用制度の概要とITエンジニアの業務内容を解説したうえで、障がい者雇用で転職を目指す際のポイントを説明します。
▼目次
障がい者雇用とは
障がい者雇用とは、雇用・労働事業主が障がい者雇用枠を使って障がいのある方を雇う制度のこと、もしくはその雇用枠自体をさします。これは「障害者雇用率制度」に基づいた雇用制度です。
関連ページ:障がい者雇用枠とは?特徴とメリット・デメリットを解説
障がいを持つ方の職業安定を図ることを目的とした法律「障害者雇用促進法」により、企業は雇用している従業員が43.5人以上の場合、1人以上の障がい者を雇用することが決められています。対象となる企業は、民間企業と公共機関です。
障がい者は健常者と比較して、就労の機会を得にくいのが実情です。障がい者の自立や社会参加を目的として、障害者雇用率制度が設けられました。
参考ページ:厚生労働省 障害者雇用促進法の概要
参考ページ:厚生労働省 障害者雇用率制度
障がい者雇用の条件と対象者
障がい者雇用の条件と対象者を、以下にまとめました。
障がい者雇用の条件 | 対象者 |
---|---|
自治体から発行された「障害者手帳」を 持っていること | 知的障がい者 身体障がい者 精神障がい者 |
精神障がい者は、何らかの精神障がい(てんかん、発達障がい、うつ病などを含む)により、長期にわたって社会生活や日常生活に制約がある方をさします。ただし障がい者手帳を持っていない場合は、原則として一般雇用となります。
企業の障がい者雇用率の向上は、障がい者手帳を持っている人を雇用した場合に限られることが背景にあるためです。
関連ページ:精神障害者保健福祉手帳とは?障がい者雇用で知っておきたい基本を解説
なお、障がいのある方でも、障がいをオープンにせずに一般雇用枠へ応募することもできます。この場合は、一般の応募者と同じ条件で募集がおこなわれる点に注意が必要でしょう。
関連ページ:障がい者雇用と一般雇用の違いは?それぞれの特徴を比較解説
障がい者雇用で働くメリット
ITエンジニアが障がい者雇用で働くメリットは、主に3つです。
- 障がいに応じた配慮を受けられる
- 仕事と治療を両立できる
- 就職先の企業と支援機関との連携が期待できる
障がい者雇用のメリットは、必要な設備の提供やサポートなど、障がいに応じた配慮が受けられることにあります。
たとえば障がい者が就職するうえで、通勤は1つのハードルになることがあります。電車やバスなどの通勤手段が選びにくいほか、アクシデントが発生したときにコンディションを崩す可能性が考えられるでしょう。企業によっては障がい者雇用で在宅勤務が選べる場合もあるため、事前に確認することをおすすめします。
障がいの特性によって、治療やリハビリが必要な方は「通院をしやすくする」などの配慮も受けやすいです。国の「就労移行支援事業」を通じて、雇用者と支援者が協力して、職場の課題解決のサポートを受けることも期待できます。
関連ページ:障がい者雇用でITエンジニアが働くメリットは?転職成功の秘訣を紹介
障がい者雇用で働くデメリット
ITエンジニアが障がい者雇用で働くデメリットは、主に3つです。
- 障がいを持っていることを転職時に伝えなくてはならない
- 給与が低めに設定されることがある
- 業務内容への希望が通らないことがある
障がい者雇用枠を使用する際、原則は「障害者手帳」が必要になるほか、自身の状況について転職時に伝えなくてはならない場合があります。ただし現状を詳しく相談することで、後に状況に応じた配慮を受けやすくなることから、むしろメリットになるケースも考えられるでしょう。
また一般雇用枠に比べて、障がい者雇用枠は労働時間や契約形態により給与が低めに設定されることがあるほか、希望する仕事内容や量が得られない場合があります。こうした状況を避けるため、事前に希望をしっかり伝え、継続的にコミュニケーションを図ることが大切です。もしくは最初から一般雇用枠での転職を検討しましょう。
障がい者雇用を活用するポイント
ITエンジニアが障がい者雇用制度を活用するポイントは以下の2つです。
- 契約前に詳細を確認する
- 転職に有利となる知識やスキルを身につける
契約前に詳細を確認する
障がい者雇用制度を活用する前に、制度に関する基礎知識や、対象となる求人の詳細を把握しましょう。障がい者雇用と一般雇用の違いを把握したうえで、ITエンジニアにはどのような知識やスキルが求められているかを知り、自分の経歴や能力と照らし合わせれば、補うべきところが把握できます。
仕事内容を確認する方法は主に以下の3つです。
- Web検索
- 書籍
- 説明会
数多くあるエンジニアの求人から、自分にあったものを見つけましょう。また、自分と同じ障がいを持ち、ITエンジニアを経験した人が発信する情報も参考になります。自分のスキルや能力を客観的に判断したいときは、適性診断(検査)が役立つでしょう。
転職に有利となる知識やスキルを身につける
エンジニアにとって転職に有利となりやすい知識やスキルは、以下の4つの方法で身につけられます。
- 就労移行支援サービス
- オンラインスクール
- エンジニア向けコミュニティ
- 書籍
就労移行支援サービスを利用すると、自分のペースでスキルを身につけられます。利用するサービスを決めるときは、自分が抱えている悩みに適したサービスを選びましょう。また、実際に見学して、訓練内容や雰囲気などから総合的に判断してください。ただし経験者向けではなく、初心者向けのサービスが基本となる点には注意が必要です。
障がい者に特化したオンラインスクールは、収入を得ながらスキルを身につけられます。就職支援もしてもらえるため、安心して利用できます。
エンジニア向けコミュニティは、エンジニアが集まって新しい情報や技術について話し合う場所です。同じ分野に興味を持つ人と情報共有や質問することができるため、勉強のモチベーションを維持できます。
書籍はその分野のプロが書いたもののため、専門的な知識を体系的に学べます。いつでも手に取って目を通せるため、情報をインプットしやすいのが特徴です。
関連ページ:障がい者雇用でエンジニアとして転職するポイントを解説【IT業界】
ITエンジニアの種類と業務内容
ITエンジニアの種類は主に3つです。業務内容は職種によって異なり、一般雇用枠と障がい者雇用枠で大きな違いは少ない傾向にあります。ただし実際に任される業務は企業との契約内容や勤務形態などによっても異なるため、転職活動時に確認する必要があります。
- SE(システムエンジニア)
- ネットワークエンジニア
- サーバーエンジニア
システムエンジニアは、開発における要件定義や外部および内部設計を担当します。要件定義とは、開発するシステムに必要な機能を決めることです。外部および内部設計で決めるのは、システムの構成や内部の動作、データの処理の仕方です。要件定義や外部および内部設計を進めるときは、クライアントの要望をヒアリングしてニーズを理解し、適切なシステム構成を考える必要があります。
ネットワークエンジニアは、個々のコンピュータを接続するネットワークを設計、構築を担当します。具体的には、ネットワークの構成や使用するルーターの数や種類、回線などを決め、運用から保守までを担当します。ネットワークに関する基礎知識やWebサーバー、クラウドへの理解が求められます。
サーバーエンジニアは、システムを運用するサーバーの設計や運用、保守を担当します。サーバーにはWebサーバーやメールサーバーなどの種類があり、クライアントのニーズに合わせて設計、構築します。そのため、サーバーOSの基礎を押さえておきましょう。サーバーOSに多用されているLinux系は、実際に操作して慣れておきたいOSです。また、セキュリティ対策への知識やクラウドサーバーを扱うスキルがあると、現場で重宝されます。
関連ページ:エンジニアの仕事内容は?障がい者雇用枠で働くうえでおさらいしたい基本
ITエンジニアに求められるスキルや能力
一般的にITエンジニアに求められるスキルや能力は以下の4つです。これらは障がい者雇用を視野に入れて転職するうえでも、大きな武器となるでしょう。
- ITの知識やスキル、経験
- コミュニケーションスキル
- 論理的思考力
- 情報収集力
ITエンジニアには、ITに関する知識やスキルが求められます。たとえばプログラミングや情報処理などに関するものです。IT業界は技術の進歩が早いため、情報を継続的に収集する必要があります。エンジニアとして長期的に働き続けるためにも、新しいソフトウェアや開発環境などを把握する必要があります。
情報はITメディアやカンファレンスサイト、SNSから収集できます。ハビットトラッカーやニュースフィードアプリなどで毎日のタスクに組み込んで、情報に触れる機会を作ることから始めましょう。さらに知識やスキルを証明する資格を取得したり、これまでの経験をわかりやすくまとめたうえで転職時に明示すると有利に働きやすいです。
またITエンジニアは単独でおこなう仕事というイメージがありますが、実際は多くの人と協力して働いています。業務内容をITに詳しくない人に分かりやすく説明し、クライアントのニーズを引き出すことも仕事の1つとなるため、円滑なコミュニケーションが欠かせません。
論理的に考えられる能力は、システム開発やトラブルの対応に役立ちます。課題を解決するときは、順序立てて考える冷静さが大切です。落ち着いて仕事に取り組めるように、コンディションを整えましょう。
障がい者雇用の求人に応募する方法
障がい者雇用の求人に応募する方法は3つあります。
- 障がい者向けの就職支援サービス
- 企業の採用ページを確認する
- 企業説明会や面談会に参加する
なお応募するときは、企業が障がいへの配慮にどのように取り組んでいるのかをよく確認してください。同時に、自身に必要なサポートや配慮を先方にハッキリと伝えましょう。
障がい者向けの就職支援サービス
障がい者の就職を支援するサービスには、就労支援移行サービスやハローワークなどがあります。
特徴は、業務のスキル以外にビジネスマナーや面接のアドバイスなど手厚いサポートが得られることです。また、紹介される求人情報は自分の状態に合ったものが多いため、働きやすい場所を見つけやすくなります。
企業の採用ページを確認する
企業の採用ページに、障がい者雇用の求人情報が掲載されているかを確認しましょう。採用ページをチェックすると、就職支援サービスでは掲載されていない企業を見つけられます。ただし、企業によって募集するタイミングや応募方法が異なる点に注意してください。そのため、情報はこまめにチェックしましょう。
応募にあたって、自ら手続きや準備を進めることが苦手な人は対策を取ってください。理由としては、応募や面接の際、書類をそろえたり自分で勤務日数や待遇を交渉することになるためです。
障がい者向けの企業説明会や面談会
障がい者向けの企業説明会や合同企業面談会では、人事担当者から直接話を聞くことができます。説明会を主催するのは、就職支援サービスか企業です。企業への応募にあたって説明会への参加を求める企業もあるため、気になる企業が説明会を開いているときは積極的に参加しましょう。
関連ページ:障がい者雇用で正社員になれる?正社員の登用を目指すコツを解説
まとめ
障がい者雇用は、障がい者の自立や社会参加を目的とした制度です。一定の条件を満たした企業は、障がい者を雇用することが定められています。ITエンジニアは障がいのある人でもキャリアパスを描きやすいですが、障がい者雇用枠の利用にはメリットとデメリットがあります。希望する条件によっては、一般雇用枠での応募も視野に入れたほうが有利になるかもしれません。転職の際は自分のスキルや経験、障がいの程度を把握したうえで、情報を収集することから始めましょう。